受け継がれる極意。

手仕事の美、ろくろ細工。

Interview 10

千年先も、いつくしむ。宮島

受け継がれる極意。
手仕事の美、ろくろ細工。

Interview 10

宮島で作られる杓子(しゃくし)やろくろ細工、宮島彫などの木工芸品は「宮島細工」と呼ばれ、1982年に国の伝統的工芸品に指定された。その始まりは、嚴島神社の再建などに携わった宮大工らの技術に由来するという。後継者が減る中、伝統を守り活動を続けているのが、宮島ろくろ細工の伝統工芸士 藤本悟さんとその弟子の下村祐介さんだ。宮島に息づく技術や継承への思い、新しい表現への挑戦を聞いた。

木材から削り出される、
完璧な円形。

木材から削り出される、完璧な円形。
藤本氏作 欅赤拭漆盛器
藤本氏作 欅赤拭漆盛器

宮島ろくろ細工は、江戸時代末期の嘉永年間(1848~1853年)に、島内の吉川屋佐兵衛が汁杓子用の厚手の木皿を挽いたのが始まりと伝えられている。その後、小田権六(おだごんろく)が2人挽きろくろを導入し、弟子とともに板盆や菓子器、茶托などの生産を本格的に開始。明治時代半ばには手回しろくろから足踏みろくろに改良され、1人で大きな盆などの制作も可能になった。最盛期は明治末期から大正時代で、ろくろ職人は当時250人余りいたという。
「山口県の中学校を卒業して、職人を志して宮島に来たのが昭和30年ごろです。今は数軒になりましたが、当時は島内に11軒の工房がありました。師事したのは村上工芸の村上亮一さん。家族のように温かく、自主性も尊重してくれる素晴らしい人でした」と振り返るのは、この道68年の藤本悟さんだ。
木材をろくろに設置して回転させ、鉋(かんな)を当てて削り出す。ろくろの電動化でよりスピーディーになったこの伝統技法を、シンプルに「とても面白い」と藤本さんは語る。熟練の手つきで刃物を操り、寸分の狂いもなく滑らかな円形が削り出される様は、思わず見入ってしまうほど。こうして生まれた素地は「宮島彫」の職人にも提供され、新しい宮島細工の作品へと昇華する。

材料はケヤキが中心。木目が美しく、漆の染み込みも良い。
材料はケヤキが中心。木目が美しく、漆の染み込みも良い。
材料はケヤキが中心。木目が美しく、漆の染み込みも良いという。
1994年に伝統工芸士に認定された藤本悟さん。
1994年に伝統工芸士に認定された藤本悟さん。
2009年には「瑞宝単光章(ずいほうたんこうしょう)」を受賞。皇居で天皇陛下に拝謁した。
「嚴島神社と同じくらい宮島細工のことも広く知ってもらいたい」

宮島に腰を据え、
伝統工芸に向き合う。

藤本さんの背中を追うのは、2017年からこの世界に入った下村祐介さんだ。職人に憧れ、ものづくりを仕事にしたいと考えて、三重県の高校から広島市立大学芸術学部に進んだ。そこで出会ったのが、非常勤講師としてろくろ細工の授業を担当していた藤本さんだ。
「ろくろの実習が始まるのは3年からですが、すごく興味があって2年次から工房に出入りさせてもらうようになりました。ただ、先生(藤本さん)からは、作品作りだけで食べていくのは難しいと、最初にきっぱり言われました」
そこで、大学院修了後は高校の非常勤講師を兼務しながら修業の道へ。2年前からは「伝統工芸継承担当の地域支援員」(総務省の「地域おこし協力隊」の制度を活用した廿日市市独自の職)として制作を続けている。任期はあと1年。将来的な独立を見据えて、2025年には元職人の工房・店舗を引き継いで宮島に移住した。
「人生をかけて宮島に来て、ろくろで生きていこうという人間は他におりません。彼こそ本当の弟子だと思っていますし、私が持っている技術は全部渡したい」と藤本さん。師匠の言葉に顔をほころばせる下村さんは、ここまで夢中になった宮島ろくろ細工の魅力について、「木を削る前段階の刃物作りなど、けっこう泥臭くて難しい作業が多いんです。でも、それが逆に面白い。のめり込んでしまいます」と話す。また、宮島に拠点を構えて以降、「本家本元で作っている」という喜びとともに、作品にも価値が加わったと感じている。「宮島」を盛り上げる職人の一人として、その自負も生まれた。

下村祐介さん
宮島に拠点を構えて以降、「本家本元で作る喜びを感じるようになった」と話す下村祐介さん。
下村祐介さん
下村祐介さん
作品作りは刃物の打ち直し・焼き入れからスタート。正解が分からない難しい作業だ。
下村祐介さん
下村祐介さん

新たな表現で
宮島ろくろの良さを広めたい。

藤本氏作 茶櫃
藤本氏作 茶櫃

宮島のろくろ細工は、木目を生かした素地仕上げが基本だ。しかし近年では、耐久性や使いやすさを考えて、漆を薄く塗って擦り込んで拭き上げる「拭漆(ふきうるし)」という技法が用いられるようになった。藤本さんはこの漆の工程で、鮮やかな赤や紫の漆を使い、これまでにない表現に力を入れている。「初めは新しいものへの批判も受けました。しかし、漆を塗ることで木目がはっきり出て、宮島ろくろの良さが際立つと思います」
そんな藤本さんの影響もあり、下村さんは大学での終了制作で、色漆でもみじの新緑から枯れ葉までを表現した7点の小皿を制作。また、本来は正円が美しいとされるろくろ細工だが、あえて初めから欠けていたり節があったりする木材を使い、現代の暮らしになじむ時計や一輪挿しなども手掛ける。「完全な円ではないところが、宮島のもみじや落ち葉のイメージとリンクするかなと思っています」と下村さんは語る。

下村氏作 紅葉の小皿
下村氏作 紅葉の小皿
下村氏作 一輪挿し
下村氏作 一輪挿し

このような“下村さんならではの表現”はもちろん応援するというのが、藤本さんの考えだ。「ただし職人として、きれいなものを早く正確に量産する技術も重要です。そのための基本は、独立後もしっかり教えていきたい」と話す。
師匠と同じ空間でものづくりに打ち込み、経験に裏打ちされた技術を存分に吸収する。そのかけがえのない時間から、次の時代に向けた伝統が築かれていく。

ワークショップの開催や展示会の企画などでも、宮島ろくろ細工の情報を発信している。
ワークショップの開催や展示会の企画などでも、宮島ろくろ細工の情報を発信している。
2026年には初の二人展を広島市内のデパートで開催予定。
2026年には初の二人展を広島市内のデパートで開催予定。