人々の想いが守る、
“神の宿る島”の自然。
1934(昭和9)年に、日本初となる国立公園の一つに指定された瀬戸内海国立公園。世界文化遺産「嚴島神社」を擁する宮島は、島全体がこの国立公園の特別保護地区・特別地域と文化財保護法の特別史跡・特別名勝に定められ、多様な植物や生物が調和のとれた生態系を形づくっている。そんな宮島の自然や環境を守るボランティア団体「瀬戸内海国立公園 宮島地区パークボランティアの会」の末原義秋会長を訪ね、これまでの活動や原動力となる思いを聞いた。
宮島が好き。宮島を守りたい。
「団体の設立はもう20年以上も前のこと。国立公園の保護や適正利用のために、宮島地区のボランティア団体を立ち上げたいと、環境省から働き掛けがあったのが始まりです」
穏やかな口調で話しはじめた末原さん。当時、宮島町役場で土木全般業務を担当していた経緯もあり、それ以降は環境省と連携する形で、活動がスタートした。
主な取り組みは、海岸や登山道の清掃、植物や野鳥などの自然環境調査および観察会の実施、会報誌や冊子の発行など。入会の窓口は環境省で、数年に一度新メンバーを募集。体験期間後に登録された会員約40人(2023年現在)が、月2~3回の活動に任意で参加している。
「会員の中には、もともと歴史や植物、野鳥などに詳しい人もいて、観察会などで活躍しています。自然や景観を守りたい、宮島について勉強したいなど、思いはいろいろですが、みんな宮島が好きなんですよ」末原さんの優しい笑みがこぼれる。
自然と人と、歴史が共存する。
一般参加者を募った公募観察会も行っているが、観光案内ではないという。2022年、3年ぶりに開催した際は、会員と一般参加者約40人が、杉之浦エリアのフィールドワークに出発。この地区の国有林「檜皮(ひわだ)の森林(もり)」などを見て回った。一帯は「世界文化遺産貢献の森林(もり)」に設定されていて、森林と文化財の関わりを学習する拠点になっている。
どういう関わりかといえば、歴史ある社寺の屋根を守っている「檜皮」。これを採取できる樹齢100年超えのヒノキが、島の北東斜面に育っているのだ。専門の原皮師(もとかわし)が、数年前に皮をはいだ木を見せていただいた。跡はだいぶ消えているそうだが、幹の色や質感が異なっている。木を大切に守りながら、その皮を利用し建物を守らせていただく。自然と人と、歴史的建造物の共存と呼べるだろう。
「観光では訪れない場所ですが、私たちが知ってほしいのは、宮島のそういう姿。宮島に愛着があるからこそ、この地に根付く自然や伝統、風習などの情報を発信したいのです」と末原さん。
例えば、民家や公衆トイレの入り口に設置された、引いて開く扉「鹿戸(しかど)」。押すことはできても、引くことができない鹿の習性を考慮し、侵入を防いでいる。野生の動物である鹿と共生していくための知恵だ。
人々が紡いできた、島への想い。
「街の中にいる鹿を見るとかわいいという気持ちは分かりますが、野生動物には餌を与えないでください。動物のためになりません。ごみも持ち帰るか、桟橋前のごみ箱に集めるかを徹底してもらいたいです。自然を守り、野生動物と共存するために必要なことなのです」
建物の高さや色の規制、立ち入り禁止など、宮島には決まりがたくさんある。不便ではあるが、神の島に暮らす人々は、それを当たり前のこととして生活してきた。「この意識があるからこそ宮島は守られてきたんです」と末原さんは語る。
団体としては、今後もこれまで通り活動を継続し、他団体の宮島弥山を守る会、宮島さくら・もみじの会などとも情報共有しながら、「多くの人が想いを注いだ宮島」を守り伝えていきたいという。
そんな末原さんが宮島にひかれる一番の理由は、やはり自然だそうだ。
「紅葉ばかり注目されがちですが、桜も、ハイノキの花が山を飾る4~5月も、鮮やかなモミジや常緑樹の新緑も素晴らしいです。大鳥居だけではない宮島の四季折々の表情に、ぜひ目を向けてもらいたいです」
活動の様子
国立公園の保護と適正な利用に寄与する活動を行うことを目的に、2000年に発足。 観察 ・ 環境整備 ・ 広報の3つの部会を設け宮島の自然と環境を守る活動を行っている。
日本三景、安芸の宮島、世界文化遺産の弥山を末永く後世に伝えていくことを目的とした会で、清掃登山、勉強会、広報活動を行っている。
宮島のシンボルであり観光資源でもある桜と紅葉を育て、多くの人に愛される名所づくりを目指すとともに、自然と文化に育まれた魅力ある美しい宮島の環境保全に努めている。