宮島に住む人と観光客が、

深くつながれる場を。

Interview 06

千年先も、いつくしむ。宮島

宮島に住む人と観光客が、
深くつながれる場を。

Interview 06

観光客が増える一方で、高齢化・人口減少などの問題を抱える宮島では、島内各地で地域活性化への取り組みが進んでいる。その一つが、ゲストハウス「三國屋」を拠点に、広島の学生が中心となって活動する「中江町(ちゅうえまち)活性化プロジェクト」だ。旧暦8月1日に行われる「たのもさん」のワークショップに向けて準備中のメンバーを訪ねた。

広島修道大学、叡啓大学、広島大学、安田女子大学の学生が活動。「大学の枠を超えたつながりができてうれしい!」
広島修道大学、叡啓大学、広島大学、安田女子大学の学生が活動。「大学の枠を超えたつながりができてうれしい!」

伝統行事と観光客をマッチングする。

ゲストハウス「三國屋」
ゲストハウス「三國屋」

厳島神社の南側エリアに広がる中江町。山の手に向かって延びる坂道は「柳小路(やなぎこうじ)」と呼ばれ、通りには飲食店や宿泊施設が点在する。表参道商店街とは趣が異なる、落ち着いた町並みが印象的だ。そんな中江町でゲストハウス「三國屋」を運営するのが寺澤(てらざわ)潤哉さん。コロナ禍で来島者が激減した2021年、もともと関心があった地域活動に力を入れるようになった。

「三國屋は中江町にある施設ですが、地域の人の出入りはほとんどありませんでした。にぎわいを取り戻すためにも、地域住民と観光客が気軽に交流できる場をつくりたかったんです」

そこで中江町の仲間や、ご縁があって繋がった学生たちと「ちゅうえマルシェ」を開催するように。地元の人にもとても喜ばれ、「次回もよろしくね」と声をかけられたという。
昨年は新たな取り組みとして、体験型ナイトアクティビティ作りと文化継承をめざして、「鎮火祭 松明作りワークショップ」を開催。多くの地域住民からのサポートがあり、島外からの参加者の好評を得た。

「宮島にはたくさんの“もったいない”があるように感じます。その一つが季節ごとの行事です。担い手不足や継続の難しさが課題となっている中、三國屋に泊まるお客様は、宮島ならではの伝統行事に触れることを非常に楽しみにしています。彼らは地域住民との交流や、その土地の日常を味わうことに大きな価値を見出しているんです。文化や伝統を守り続けてきた島民の方々の思いと、観光客の興味がうまくマッチすれば、宮島の行事の再評価や地域の活性化につながると私は信じています。」

三國屋 マネージャー 寺澤潤哉さん
三國屋 マネージャー 寺澤潤哉さん
「学生はもちろん他の団体の力も借りつつ、活動を続けていきたいです」

学生が発案した、
新たなイベントの仕掛けも。

中江町に隣接する「南町」には、子どもの無事な成長や、家内安全、五穀豊穣などを祈願する「たのもさん※」という毎年恒例の祭りがある。この祭りに合わせて「中江町活性化プロジェクト」では、「たのも船づくりワークショップ」を企画。イベントを数週間後に控えた取材日も、広島県内4大学の学生が集まり、準備に汗を流していた。

※たのもさん
旧暦8月1日に行われる厳島神社の末社・四宮(しのみや)神社の祭り。島自体がご神体として信仰の対象とされてきた宮島では、農耕が禁じられていた。そのため島民の農作物に対する感謝の念は強く、その気持ちの表れとして対岸に手製の小船「たのも船」を流す「たのもさん」が始まった。船には団子でつくった家族の人数分の人形等を乗せる。2009年に文化庁の「記録作成等の措置を講ずべき無形の文化財」に指定。

制作途中の「たのも船」
制作途中の「たのも船」

リーダーはゼミの先生から中江町の活動を紹介され、発足当初から参加している広島修道大学の後藤直志さん。これまで外国人向け「やさしい日本語」を活用したフリーペーパー作成やマルシェ運営などに携わってきた。副リーダーは同大学の岸達哉さん。宮島ツアーガイドの授業で三國屋を知り、インスタからDMを送信。後藤さんの誘いもあって活動に加わったという。叡啓大学の杉浦日向子さんは、三國屋でのインターンシップをきっかけにメンバーに。3人とも各自の専攻分野の延長として、地域活性化や外国人との交流に興味があったと話す。

学生主体で開催する初イベントとなる「たのも船づくりワークショップ」では、彼らが参加者の指導役になり、「たのも船」の組み立てと装飾をサポート。ワークショップ終了後には、おはらいを受けた船を宮島の夜の海に流す予定だという。

後藤直志さん(広島修道大学 人文学部4年)
後藤直志さん(広島修道大学 人文学部4年)
「中江町を表参道商店街、町家通りに次ぐ賑わいにしたいです」
岸達哉さん(広島修道大学 国際コミュニティ学部3年)
岸達哉さん(広島修道大学 国際コミュニティ学部3年)
「何度も足を運ぶうちに、宮島に“日本の和”を感じるようになりました」
杉浦日向子さん(叡啓大学 ソーシャルシステムデザイン学部2年)
杉浦日向子さん(叡啓大学 ソーシャルシステムデザイン学部2年)
「宮島の夜のアクティビティや平和関連のイベントを企画してみたいです」

中江町の魅力とは?
それを活性化の糸口に

廿日市市や広島市で生まれ育った3人にとって、宮島はプロジェクトに関わる前から身近な観光地だったそうだ。「家族や学校の仲間とよく来ていましたが、話をするのは土産物屋の方ぐらい。でも活動を通して、宮島の伝統文化とその奥深さを知りました」。そう話すのは杉浦さん。例えば、過疎化が進む中であっても、地元の人には「行事や文化を途切れさせたくない」という強い思いが一様にある。「たのも船」の制作にあたり、宮島ロクロ細工の技術を継承している方から指導を受けた岸さんも、「昔ながらの作り方が守られていることや、細部にこだわりがあることを実感しました」と話す。

後藤さんは「観光客に宮島を最大限に楽しんでもらうために何が必要か」という視点で、広島を代表する観光地について考えるようになったという。プロジェクト拠点である中江町の良さは、第一に人々の温かさ。その魅力を広めるために、「地域の人と観光客がちょっとだけ深くつながれる機会を増やしたい」と話す。

今後の目標は、中江町で始まった活動を持続させ拡げていくこと。
「他大学の学生も巻き込みながら、大学や学部の枠を超えた、学際的な視点で活動を進めていきたい。中江町での活動に参加したら色んな出会いがあり、他ではできない経験ができるよ、と学生の間で評判になるような場所にしたい」と寺澤さん。
学生たちの挑戦は、これからの宮島を力強く支えていきそうだ。

「やさしい日本語」ツール
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